獣医学部 共同獣医学科(旧所属?农学部)
准教授 中牟田 信明
獣医解剖学
岩手大学农学部の中牟田信明准教授らは、東京科学大学の二階堂雅人准教授らと共同で肺魚の嗅覚器に発現する2型鋤鼻受容体遺伝子を同定し、嗅覚器におけるそれらの発現部位を解析することによって、肺魚の2型鋤鼻受容体がラメラ嗅上皮(他の魚の嗅上皮と似た嗅覚器)に発現するものと、陥凹部上皮(四足動物の鋤鼻器と似た嗅覚器)に発現するもの、およびラメラ嗅上皮と陥凹部上皮の両方に発現するものの3つに分類されることを明らかにしました。両生類のツメガエルでは2型鋤鼻受容体が嗅上皮に発現するものと鋤鼻器に発現するものの2つに分類されることなどから、肺魚は嗅上皮と鋤鼻器との間で2型鋤鼻受容体遺伝子の発現が完全に分離する途中段階にあることが示唆されます。今后、さらに嗅覚受容体遗伝子の発现を解析することで、脊椎动物の进化を解明するための研究成果が期待されます。
本研究は、2024年9月30日に米国Springer社の「Cell and Tissue Research」で公開されました。
私たちヒトを含めたあらゆる动物は、嗅覚器に分布する嗅细胞と、嗅细胞に発现する嗅覚受容体を介して环境中の化学物质を受容しています。
四足动物の嗅覚器は多くの场合に嗅上皮(主嗅覚器)と锄鼻器(副嗅覚器)からなり、哺乳类では嗅上皮と锄鼻器に线毛性嗅细胞と微绒毛性嗅细胞が分かれて分布しています。一方、鱼类では线毛性嗅细胞と微绒毛性嗅细胞が嗅上皮に混在し、锄鼻器は存在しません。
嗅覚受容体は7回膜贯通型の骋タンパク质共役受容体で、その主なものには匂い受容体、微量アミン関连受容体、1型锄鼻受容体、および2型锄鼻受容体があります。
肺魚は肉鰭類に属する魚で、四足動物に最も近い魚として知られています。肺魚の嗅覚器はラメラと呼ばれるひだ状構造と、ラメラの付け根に位置する陥凹部とからなり、ラメラの表面をラメラ嗅上皮がおおい、陥凹部を陥凹部上皮が裏打ちしています。嗅細胞の微細形態学的特徴や组织化学的特徴は、ラメラ嗅上皮が他の魚の嗅上皮、陥凹部上皮が四足動物の鋤鼻器に似た嗅覚器であることを示しています。
これまで、肺鱼の2型锄鼻受容体がラメラ嗅上皮と陥凹部上皮の両方に発现していることは様々な証拠から示唆されていましたが、ラメラ嗅上皮と陥凹部上皮とで2型锄鼻受容体が同じように発现しているのか、それとも両者に异なる2型锄鼻受容体が発现しているのかは不明でした。
本研究ではアフリカ肺鱼プロトプテルス?アネクテンスの嗅覚器における2型锄鼻受容体の発现を调べるため、嗅覚器の搁狈础シーケンス解析を実施し、123の2型锄鼻受容体遗伝子を同定しました。
次に、それらの中から21の2型鋤鼻受容体遺伝子を選んでPCRクローニングした後、RNAプローブを合成し、これらのプローブを用いたin situハイブリダイゼーション解析により、嗅覚器における各遺伝子を発現した細胞の局在を可視化しました。
さらに、ジゴキシゲニン標識プローブとフルオレセイン標識プローブを用いた2重in situハイブリダイゼーションによって、2型鋤鼻受容体とGαo(2型鋤鼻受容体と共役するGタンパク質)、Gαi2(1型鋤鼻受容体と共役するGタンパク質)、およびGαolf(匂い受容体と共役するGタンパク質)との共発現を調べました。
肺鱼の2型锄鼻受容体は、四足动物でみられる迟别迟谤补辫辞诲-濒颈办别なものと、鱼类でみられる蹿颈蝉丑-濒颈办别なものの両方を含んでおり、鱼と四足动物の中间に肺鱼は位置付けられました。
in situハイブリダイゼーションでは、ラメラ嗅上皮にしか発現していない2型鋤鼻受容体と陥凹部上皮にしか発現していない2型鋤鼻受容体に加えて、ラメラ嗅上皮と陥凹部上皮の両方に発現している2型鋤鼻受容体が見つかりました。このことは、肺魚における2型鋤鼻受容体の発現が、嗅上皮に発現する2型鋤鼻受容体と鋤鼻器に発現する2型鋤鼻受容体に分離する途中段階にあることを示唆しています。
さらに、2重in situハイブリダイゼーションによって、2型鋤鼻受容体はGαoと共発現するが、Gαi2やGαolfとは共発現しないことが示され、肺魚の2型鋤鼻受容体遺伝子にコードされたタンパク質は機能的な鋤鼻受容体として存在していることが示唆されました。
また、2型锄鼻受容体のアミノ酸配列に基づいた系统树において、陥凹部上皮にしか発现しない2型锄鼻受容体と、ラメラ嗅上皮と陥凹部上皮の両方に発现する2型锄鼻受容体は1つのクレードに集中しており、これらの受容体は肺鱼の祖先に存在していた単一ないし少数の2型锄鼻受容体から派生したものである可能性が示唆されました。
脊椎动物が鱼から四足动物へ进化する间に线毛性嗅细胞と微绒毛性嗅细胞が分かれて分布するようになり、解剖学的に嗅上皮から独立した器官である锄鼻器は诞生したと考えられています。
四足动物では一般に嗅覚受容体が嗅上皮と锄鼻器に分かれて発现し、哺乳类の匂い受容体と微量アミン関连受容体は嗅上皮、1型および2型锄鼻受容体は锄鼻器に発现しています。両生类のツメガエルには哺乳类型嗅上皮(线毛性嗅细胞が分布する)と鱼类型嗅上皮(线毛性嗅细胞と微绒毛性嗅细胞が混在する)が存在し、2型锄鼻受容体は鱼类型嗅上皮に発现するものと锄鼻器に発现するものとに明确に区别されます。
本研究で示されたように2型锄鼻受容体がラメラ嗅上皮にしか発现しないもの、陥凹部上皮にしか発现しないもの、およびラメラ嗅上皮と陥凹部上皮の両方に発现するものに区别されることは、肺鱼が鱼と四足动物の中间に位置付けられることを示唆しており、1型锄鼻受容体を発现する细胞のほとんどがラメラ嗅上皮に分布し、陥凹部上皮にはごくわずかしか分布していないことを示した过去の研究结果(
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)とも一致します。
今后、さらに嗅覚受容体遗伝子の発现を解析することで、脊椎动物の进化を解明するための研究成果が期待されます。
題目:Type 2 vomeronasal receptor expression in the olfactory organ of African lungfish, Protopterus annectens (アフリカ肺魚プロトプテルス?アネクテンスの嗅覚器における2型鋤鼻受容体の発現)
著者:Shoko Nakamuta (中牟田祥子?岩手大学农学部 特任研究員), Zicong Zhang (張 子聡?京都大学高等研究院ヒト生物学高等研究拠点), Masato Nikaido (二階堂雅人?東京科学大学生命理工学院), Takuya Yokoyama (横山拓矢?岩手大学农学部), Yoshio Yamamoto (山本欣郎?岩手大学农学部), Nobuaki Nakamuta (中牟田信明?岩手大学农学部)
誌名:Cell and Tissue Research
公表日:2024年9月30日
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本研究は、以下の研究事业の成果の一部として得られました。
?文部科学省科学研究費補助金?基盤研究(C)「ハイギョの原始的鋤鼻器における2型鋤鼻受容体および発生関連遺伝子の発現解析」研究代表者:中牟田 祥子
农学部 共同獣医学科
准教授 中牟田 信明
nakamuta@iwate-u.ac.jp
019-621-6204