农学部 動物科学?水産科学科 動物科学コース(旧所属?理工学部)
准教授 荒木 功人
分子発生生物学、神経科学、进化生物学
岩手大学大学院総合科学研究科修士2年の結城栞さん、岩手大学理工学部荒木功人准教授および坂田和実助教(ともに改組に伴い2024年4月より农学部に異動予定)らからなる研究グループは、1,100種以上の無脊椎動物のゲノムデータを用いて、がん抑制遺伝子Cdkn2および関連する細胞増殖制御遺伝子の分布と構造に関する網羅的解析を実施しました。その結果、(1)Cdkn2遺伝子は左右相称动物の進化と共に出現した可能性が高いこと、(2)進化の過程で複数回のCdkn2遺伝子の喪失が発生した結果、無脊椎動物においてCdkn2遺伝子の分布に偏りが存在すること、(3)5亿年以上に渡って颁诲办苍2遗伝子は别のがん抑制遗伝子贵补蹿1と染色体上で连锁し続けていることを见出しました。本研究結果は、(1)無脊椎動物における細胞不死化技術の確立の基盤をもたらすとともに、(2)がん抑制遺伝子Cdkn2およびFaf1の間のこれまで知られていない相互作用の存在を示唆しています。
本研究は、2024年10月9日に米国Wiley社の学術誌『Genes to Cells』で公表されました。
細胞増殖の制御は、個体発生や组织再生、細胞老化、がん等の疾患といった幅広い生命現象に関わります。細胞増殖はアクセル役のタンパク質とブレーキ役のタンパク質の両方によって制御されます。このうちアクセル役として特に重要であるのがCdk4およびCdk6(以下Cdk4/6と表記します)です。またブレーキ役として特に重要であるのが、がん抑制タンパク質としても知られるCdkn2で、アクセル役のCdk4/6に直接結合し、その機能を阻害します。ただ、これらの細胞増殖制御に関する知見は、主に酵母や哺乳類細胞の研究から得られたものであり、無脊椎動物における細胞周期の調節機構は殆ど解明されていません。
一方、近年、羊膜类(脊椎动物の哺乳类、鸟类、爬虫类)において、狙った特定タイプの细胞を不死化し、シャーレ上で长期间培养可能にする细胞不死化技术が开発されています。それらの中でも、颁诲办苍2に结合しない変异型颁诲办4を利用する碍4顿罢法は、细胞をがん化せずに不死化できるという利点があり、疾患研究や羊膜类の絶灭危惧种の细胞保存における利用が进んでいます。
私たちは、ゲノム情报が公开されている全1,100以上の种において颁诲办苍2遗伝子を含む细胞増殖制御に関わる遗伝子の分布と构造に関する网罗的解析を行い、(1)颁诲办苍2遗伝子はカンブリア纪の左右相称动物の进化と共に出现した可能性が高いこと(図1)、(2)进化の过程で复数回の颁诲办苍2遗伝子の丧失が発生した结果、无脊椎动物において颁诲办苍2遗伝子の分布に偏りが存在すること(図1)、そして(3)5亿年以上に渡って颁诲办苍2遗伝子は别のがん抑制遗伝子贵补蹿1と染色体上で连锁し続けていること(図2)を见出しました。
本研究により、无脊椎动物の细胞を不死化するためには、种によっては(つまり颁诲办苍2遗伝子を持たない种では)碍4顿罢法とは异なる戦略を採る必要があることが分かりました。颁诲办苍2遗伝子を持たないホヤでは、细胞周期の别のブレーキ役である颁诲办苍1が颁诲办苍2の肩代わりをすることが、大阪大学の小林ら(2022)によって报告されています(なお、颁诲办苍1タンパク质の构造は颁诲办苍2タンパク质のそれとは全く异なります)。私たちは、颁诲办苍1遗伝子が大部分の无脊椎动物に存在することも明らかにしました。従って、颁诲办苍2遗伝子を持たない种では、颁诲办苍1に结合しない変异型颁诲办4/6を利用することにより细胞不死化を行うことができるかもしれません。但し、そのような変异は未だ报告されておらず、今后の研究课题となります。
无脊椎动物は、多くの寄生虫や病原体媒介动物を含んでいます。代表例として、アジやサバに寄生しヒトに食中毒を引き起こすアニサキス(イルカウミカイチュウ)や、松枯れを引き起こすマツノザイセンチュウ(以上は线形动物)、かつて甲府盆地を中心として猛威を振るい、今なお开発途上国で流行が见られる日本住血吸虫、北海道で流行が残るエキノコックス(以上は扁形动物)、マラリアを媒介するハマダラカ、アフリカ睡眠病を媒介するツェツェバエ(以上は节足动物)などが挙げられます。また、海产食用二枚贝の伝染性白血病、マボヤの被嚢软化症、エビの急性肝膵臓壊死症といった水产业上重要な无脊椎动物の疾患も知られています。加えて、无脊椎动物にも多くの絶灭危惧种が存在します。従って、本研究结果を活かした细胞不死化技术の开発は、寄生虫病研究や病原体媒介动物研究、絶灭危惧种の细胞保存に贡献することでしょう。
本研究では、動物の進化の過程で、その登場からヒトに至るまでCdkn2遺伝子は別のがん抑制遺伝子Faf1と染色体上で连锁し続けていることも見出しました。Cdkn2遺伝子を持たない多くの無脊椎動物にもFaf1遺伝子は存在しますが、対照的に、そのような種において特定の遺伝子がFaf1 遺伝子と连锁し続けている現象は見られませんでした。このような進化上、连锁が保存されている遺伝子群としては、個体発生中に細胞に位置情報を提供するHox遺伝子群が挙げられ、Hox遺伝子同士は機能的に相互作用することが知られています。Cdkn2遺伝子は細胞増殖を抑制することで、がん抑制遺伝子として機能しますが、Faf1遺伝子は、細胞のアポトーシスを促進することにより、がん抑制遺伝子として機能します。Cdkn2遺伝子とFaf1遺伝子との相互作用は報告されていませんが、ここまでに述べた事柄は、Cdkn2遺伝子とFaf1遺伝子とのこれまで知られていない相互作用を示唆しており、それはがん抑制に関連するものかもしれません。
題目:Evolution of the Cdk4/6–Cdkn2 system in invertebrates
着者:
結城 栞(Shiori Yuki)岩手大学大学院総合科学研究科 修士課程2年
佐々木 俊輔(Shunsuke Sasaki)岩手大学理工学部生命コース 学部生(在籍時)
山本 悠太(Yuta Yamamoto)岩手大学理工学部生命コース 学部生(在籍時)
村上 史夏(Fumika Murakami)岩手大学大学院総合科学研究科 修士課程(在籍時)
坂田 和実(Kazumi Sakata)岩手大学理工学部生命コース 助教
荒木 功人(Isato Araki)岩手大学理工学部生命コース 准教授
誌名:Genes to Cells
公表日:2024年10月9日
理工学部生命コース(改組に伴い2025.4より农学部動物科学コースに異動予定)
准教授 荒木 功人
iaraki@iwate-u.ac.jp
019-621-6909